変な夢を見た

 その街は何処にも繋がってなくて、外側がどうなっているのか誰も知らなくて。 新宿のような繁華街もあれば、高円寺のような路地もあり、私が勤めているスタジオはやっぱり上井草のような場所にあって、つまりここ暫くの、私が足を運んだ場所のイメージが作り上げた、パッチワークみたいな街。 巨大でちっぽけ。 私は毎日出社して仕事して、夜になるとスタジオの決まった数人と繁華街で飲み明かす。 繁華街に行く途中にある『蠍部屋』という鳥居の朱色みたいな入り口のライブハウスに憧れていて、いつも入ろうか否か考えるんだけど、結局は皆を追いかけて繁華街へと向かってしまう。 音が漏れていて、よく周りから文句を言われないものだ。 夢の世界だからまぁそんなものか。 飲む酒はいつも楽しく、笑いが絶える事はない。 時々彼の人とこそっと輪を抜けて眠る。 夢の中でも秘密の恋だが現実よりも一緒に居られた。 仕事も、皆と飲む酒も、彼との濃密なひとときも、欲するものはある毎日。 けれどこの街を出ようとする気持ちが日を追う事に大きくなって、えもいわれぬ焦燥感に駆り立てられて。
 この街は何処にも繋がってない。 誰も外側を知らない。 でもひとつだけ、外側に行く方法があって。 繁華街の外れにある、長いレールとブランコみたいな乗り物が奥にある丘陵地。 その乗り物に乗れば外側に行けるらしい、っていう話だけが唯一外側との接点だった。 不確かなのは、誰も戻ってこないから。 乗り物のその先がどうなっているのかすら、見送る側からはよく見えないので、どうやって外側に向かうのかもわからない。 ただ、外側の人と思われる人がそこからやって来るので、皆そこがゲートなのだろうと思っているのだ。
 遂に街を出る事にした私はある日、初めてその場所へ行った。 皆に見送られながら、そこから離れた乗り場へ向かう。 やっぱりレール付きのブランコだった。 レールに誘導されてその先端の方へと行くのだが、乗ってからもよく見えない。 もう皆が居る場所は見えなくなっていた。 と、その時ブランコが止まりその場で緩く振り子運動をし始めて。 疑問に思ったところで私の、夢の中の私の記憶はそこで途切れた。
 そのゲートの先は外側になど繋がってはいなかった。 見送る側から見えない場所で起きていたのは記憶と体の書き換え。 いよいよこの夢の奇妙さに拍車が掛かった。 こうなってくると何かしらのアニメの見過ぎだろとも言いたくなってくる訳だけど、そういった類のアニメは最近見ていない訳で。 まぁ兎に角。 そうやって姿も記憶も変えられた私はまた、その街で暮らす事になった訳だ。 仕事も酒も失ったけど、彼の人とは出会った気がする。 そこら辺は私の記憶が曖昧でよく覚えてないのだけれど。
「相当ストレス溜まってるね」 この夢をとろに話したら*1そう言われた。 今日この時も、スタジオに居る。 やっぱり胃が痛い。 昨晩彼の人から心配メールが来てたケド、大事に思われれば思われる程に言えない。 あの街は、この悩みが作り出した逃げ場なんだろうか。

*1:彼の人のくだりは言ってない